One-Person Think-Tank BK-Yoo

「超過死亡の推定」の問題点

2020-11-11 Wednesday
2020-11-11

同じタイトルで、私が参加している研究グループのホームページに、PPTスライドを掲載しました。このPPTスライドを理解する一助として、私のTwitterアカウントに、以下の要点を掲載しました(https://twitter.com/bk_yoo;2020111115:45)。Twitterのスレッドは、読みにくそうなので、一つのエッセイの形として、ここにも掲載します。

(1/17) 「超過死亡」は、感染症対策の成否の評価に必須である故に、正確に測定すべきです。しかし、日本政府が公表した「超過死亡の推定」には批判すべき点が多々あります。私が参加する研究グループのホームページに掲載した、私の批判の要点を以下で紹介します。  https://www.ric.u-tokyo.ac.jp/topics/2020/ig-20201025-1.pdf

(2/17) 先ず、コロナを死亡原因として、死亡者数を数える方法論上の問題が、少なくとも3つあります。1つめは「コロナ死」の定義が、統一されていないことです。PCR検査陽性でコロナの診断がついた後に、他の原因で死亡したと判断される事があります。詳細は下記の記事を参照。https://www.yomiuri.co.jp/national/20200614-OYT1T50084/

(3/17) 方法論上の2つめの問題。「コロナ死」の定義を統一しても、PCR検査が著しく抑制されていると、感染しても検査が受けられない確率が高い。その結果、コロナが原因で死亡した数が過小評価されます。日本の深刻な検査抑制は、一昨日のスレッドと下記(p.14以降)を参照。https://www.ric.u-tokyo.ac.jp/topics/2020/ig-20200716_all.pdf

(4/17) 方法論上の3つめの問題。コロナ患者が増えてICUで治療を受けられない故に、死亡したコロナ陰性の患者さんの、直接の死因はコロナではありません。しかし、コロナによる医療崩壊が無ければ、予防できた死かもしれませんので、コロナの広義の悪影響として数えるべきです。

(5/17) 上記のコロナの広義の悪影響を測定する方法の一つが、「超過死亡」の推定です。死亡原因として、コロナと「コロナ以外」を含む死亡者のデータを、統計学的に分析して推定します。日本政府が採用した「超過死亡」の推定方法は、「基本的」に、米国CDCと欧州CDCが各々開発した2つの手法です。

(6/17) ここから、日本政府の「超過死亡の推定」についての私の批判です。総論としての留意点から。米国CDCの推定方法を、「基本的」に用いたからといって、日本政府の推定値の正確さが、米国CDCが発表する米国の推定値の正確さと、同等である保証は全くありません。

(7/17) (総論の続き)米国CDCの推定方法を、基本的に用いても、「統計学的に許容できる仮定を追加」すると、推定値として「正解が100以上」得られるからです。これら100以上の正解から「より妥当なものを選ぶ基準」を日本政府は明示していない。数学的な基準は複数ある上、この場合、政策的に無意味。

(8/17) なお、超過死亡数の定義は「実際の死亡数(マイナス)予想数」。この「予想数」は、「過去のある時期」の「死亡率」が、今年も再現されると仮定しています。「過去のある時期」は3年か5年か?「死亡率」は、高齢化が進んでも5年間同じか?という仮定次第で、予想数の正解は優に100を超えます。

(9/17) 現時点で最新の、日本の厚生労働省・国立感染症研究所が10月末に公表した、下記の「超過死亡の推定」のホームページを読んでも、「100以上あるはずの正解、すなわち推定値」から、「何を基準に1つの妥当な推定値に絞り込んだのか」についての説明が不十分なままです。https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc/493-guidelines/9945-excess-mortality-20oct.html

(10/17) 4つの各論批判の1つめ。「超過死亡の推定値」は、関連する指標と、地域・時期において整合性が高いか否かを論じるべきです。例えば、PCR検査・抗体検査で人口当たりの検査陽性率が高い地域・時期では、超過死亡数が多いかを検証すべきです。整合性が低ければ、推定に用いた仮定を変更すべき。

(11/17) (1つめの各論の続き)上記の日本政府の発表によると、「超過死亡」を認めたのは、「神奈川県を除く」関東地方の1都4県でした。多くのPCR検査陽性者が出た神奈川県で、超過死亡を認めないのは、整合性が低い例です。また、PCR検査陽性の入院者数の様な臨床データとも整合性を検証すべきです。

(12/17) 2つめの各論批判。超過死亡は、疾患分類ごとの詳細な推定をすべきです。上記の「日本政府の超過死亡」は、全死亡原因のみの公表です。外出の減少に伴う交通事故死の減少は、コロナ対策が意図したことではありません。従って、コロナ対策の成否の評価において、除くべきです。

(13/17) (2つめの各論の続き)また、少なくとも呼吸器系・循環器系・アルツハイマー病/認知症(の施設入所者は高リスク)を区別して、超過死亡を推定すべきです。以下の、米国CDCの週毎・疾患分類毎の超過死亡は、PCR検査の陽性数の経時的変化と一致する為、妥当性は高い。https://www.cdc.gov/nchs/nvss/vsrr/covid19/excess_deaths.htm#dashboard 

(14/17) 3つめの各論批判。例えば、X県の超過死亡数は、「今年の死亡数」から「5年前の基準値」を引きます。この基準値を「5年前のX県全体の死亡率x今年の人口」と計算する事は不正確です。より正確な基準値を得る為、男女別・年齢階級別(例、65歳未満・以上)の死亡率を用いたか否かを明示すべき。

(15/17) 4つめの各論批判。超過死亡数は、できれば毎週、少なくとも毎月ごとに公表すべき。感染状況は「毎日」変化しているからです。上記の日本政府の超過死亡数(表1)は、1月から7月までの期間を合算しています。この推定の前提条件(仮定)である「1月から7月まで感染状況は同じ」は、妥当ですか?

(16/17) 5つめの各論批判。上記の日本政府発表は、「単位が超過死亡者の絶対数のみ」であり解釈が困難。下記の欧州の例の様に、「予想数に対する増加率(%)」も単位にすべきです。下記の例の様に、季節性インフルエンザの時期も明示すると、今年のコロナの影響は一目瞭然。https://www.economist.com/graphic-detail/2020/07/15/tracking-covid-19-excess-deaths-across-countries  

(17/17) 最後に総論的批判の追加。他の先進諸国に倣い、日本政府も死亡データを一般公開すれば、タダで世界中の優秀な研究者が直ちに超過死亡数を推定・公表してくれます。また、発展途上国で最も正確なデータは、死亡者数です。先進国である日本も、死亡者数データを正確に公表する事を期待します。

(2020-11-11 17:58)