One-Person Think-Tank BK-Yoo

拙論「⽇本に於ける新型コロナウイルス・パンデミックの抗体検査結果の⽐較と分析」の要点

2020-11-11 Wednesday
2020-11-11

20207月の参議院予算委員会で、児玉龍彦東京大学名誉教授がコロナ・パンデミック対策の参考人として発言されました。この際に提出した資料の一部として、私が作成したのが上記タイトルの拙論・レポートです。残念ながら、世界標準のコロナ・パンデミック対策である「無症状者を対象にするPCR検査の拡大」は、未だ日本では標準とされません。「PCR検査の拡大」の根拠として、拙論の要点を、私のTwitterアカウントに掲載しました(https://twitter.com/bk_yoo;202011922:47)。Twitterのスレッドは、読みにくそうなので、一つのエッセイの形として、ここにも掲載します。

 (1/10)「無症状者を対象にするPCR検査の拡大」を擁護する為の、このアカウントで3つ目のスレッドです。以下で、日本のPCR検査の「抑制の程度を数字」で説明します。エビデンスは、7月の参議院予算委員会で、児玉龍彦東京大学名誉教授が参考人として発言された際に提出した資料(私が一部を作成)です。

 (2/10)下記のリンクで、私が作成したのは、14ページ以降の「⽇本に於ける新型コロナウイルス・パンデミックの抗体検査結果の⽐較と分析」です。以下で、このレポートの要点と、レポートに含まれていない新たな政策含意を説明します。https://www.ric.u-tokyo.ac.jp/topics/2020/ig-20200716_all.pdf

 (3/10)要点の1つめ。深刻なPCR検査の抑制が、6月初旬にまでに認められました。最悪のケースの説明から。東京都では、PCR検査を受けて陽性の結果を得られた人数の、「最悪で54倍」の人数に感染歴がありました。この比率は、検査機関により異なりますが「少なくとも10倍」と判断できます(図表3)。

 (4/10)最悪のケースの解釈の続き。感染者の20%が入院治療が必要、検査の感度70%と仮定すると、東京都の入院治療の必要な陽性患者の約7=54x20%x70%)分の1だけが、PCR検査を受けて陽性結果を得られた事になります。検査で陽性結果が出なければ、治療の選択肢が減るので、この状況は致命的です。

 (5/10)関連する政策論の紹介から。米国で25年間医療政策の研究に従事して、私が痛感したのは、政策論の根底にある哲学の相違です。欧米では、政策の第1目標である「最悪のケースを避ける」為に、最良のケースを諦めます。日本では「最良のケースに固執して、最悪のケースを無視する」傾向があります。

 (6/10)私が「最悪のケース」の説明をするのは、欧米の政策論に倣っています。「最悪のケース」に反論される方は、是非厚生労働省に、検査数を増やすように要請して下さい。例えば、東京と大阪の抗体陽性率に統計学的有意差を期待するなら、前回の被験者数は実施数(2-3千)の「約100倍」必要でした。

 (7/10)要点の2つめ。上述した様に、抗体検査もPCR検査も検査数が少なすぎる故、感染率の推定の正確さが低いことです。感染率も、統計学的に95%の信頼区間という「幅」で予想できます。しかし、検査数が少なければ、「予想の幅」が拡がり、最悪と最善の振れ幅が大きくなり、対策立案が困難になります。

 (8/10)要点の3つめは、新たな政策含意です。既に掲載した2つめのスレッドで、「無症状者を対象にするPCR検査の費用対便益分析」を紹介しました。有病率が高くなる程、検査の経済効率は高くなります。有病率の予想値が閾値を超えた時点で、企業や医療機関がスタッフにPCR検査を実施するのが一案です。

 (9/10) 3つめの要点の続き。有病率の予想に過去の抗体検査の結果を利用できます。例えば、抗体検査で感染歴が2.5倍高かったコールセンターのスタッフのみに定期的にPCR検査を行い、陽性率が2.5%を超えた場合に、他のオフィス・スタッフ(予想有病率が1%以上)にもPCR検査対象を拡大する事も可能です。

 (10/10) 4つめの要点。厚生労働省の抗体検査を基にした過去の感染率の解釈は、統計学的に明らかな誤りであり、現実の10分の1以下に過小評価しています。詳細はレポートを参照下さい。厚労省には優秀な官僚が数多くいるにもかかわらず、重要なデータの解釈で初歩的な誤りをしたことは、驚くべき事です。 

(2020-11-11 17:37)