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拙論「新型コロナウイルスの無症状者に対するPCR検査の費用対便益分析」の要点

2020-11-11 Wednesday
2020-11-11

「新型コロナウイルスの無症状者に対するPCR検査の費用対便益分析」のタイトルで、原著論文を共著で書きました。全文は、早稲田大学 現代政治経済研究所のワーキングペーパーとして先月(202010月)公表しました。原著論文は、学術論文のスタイルで書いてあり、専門家以外の方には読みづらいので、要点を私のTwitterアカウントに掲載しました(https://twitter.com/bk_yoo202011820:51)。Twitterのスレッドは、読みにくそうなので、一つのエッセイの形として、ここにも掲載します。

 (1/12) 世界標準のコロナ・パンデミック対策は、「無症状者も対象とするPCR検査」を含みます。この世界標準から、日本の対策は、大きく逸脱し続けています。更に深刻な問題は、日本に於ける議論は、数量的・医療経済的なエビデンスが不足した、抽象論が多過ぎることです。専門家は数字で語るべきです。

 (2/12) この日本の状況を改善するため、私は共著で原著論文「新型コロナウイルスの無症状者に対するPCR検査の費用対便益分析」を書きました。以下でその要点を紹介します。論文の全文は、早稲田大学 現代政治経済研究所のワーキングペーパーとして先月公表しました。https://www.waseda.jp/fpse/winpec/assets/uploads/2020/10/J2002-1_version_p6_corrected.pdf 

 (3/12) 私の論文の目的は、無症状者対象の大規模PCR検査を経済的に正当化できる、数量的な条件をとして提示することです。例えば、検査を正当化できる条件として、「感度がX%以上」、「特異度がX%以上」、「PCR検査価格がX円以下」の「閾値のX」を数字として提示することです。

 (4/12) 私の論文の分析方法は、費用対便益分析です。この分析が計算する指標は、便益費用比です。便益費用比は、概念として営利企業の投資回収率や純益率と同じ。投資回収率が1以上なら、営利企業は投資を正当化できます。同様に、便益費用比が1以上なら、政府は公共政策を経済的に正当化可能です。

 (5/12) 私の論文の費用対便益分析は、利点が多いシミュレーション計算を基にしています。政策を実施する前に、政策効果を予想できることは利点の1つです。別の利点は、過去の研究を総括して、例えば、PCR検査の感度を仮定できます。この結果、シミュレーション計算の結果は、普遍性が高くなります。

 (6/12) そもそも総論として、政策論拠に僅か1本か2本の論文(特に一次データのサンプル数の少ない研究)のみを用いるのは危険であることに留意して下さい。先進諸国の政策論拠には、普遍性の高いシミュレーション分析や、過去の論文をまとめて再分析するSystematic Review論文が用いられています。

 (7/12) 私の論文で、PCR検査の便益費用比を計算する際は、「現状(有症状者と濃厚接触者のみが検査を受診可能)」と比較。本研究での検査は、感染リスクが低い・ないし不明な無症状者のみが対象。2つの選択肢(1)検査を一度のみ実施;(2)検査陽性なら直ちに再検査を行うについて各々計算した。

 (8/12) ここからが私の論文の結果です。結果をまとめると、無症状者対象の大規模PCR検査は、経済的視点から正当化できる可能性が高い。ある条件下の便益費用比(1.39)の解釈は、100万円かけて検査を実施すると、139万円の費用削減、すなわち39万円(=139万円-100万円)の「純便益」を生むことが可能。

 (9/12) 便益費用比(1.39)の下では、ある自治体のPCR検査への1億円の支出は、3900万円の純便益を生みます。また、喫緊な政策課題は、検査の正確さ(感度・特異度)の技術的向上ではなく、「検体採取後、隔離までの期間の短縮(3日以内が必須)」です。検査機能の分散を行うべきとの提言に繋がります。

 (10/12) また、PCR検査の正確さ(感度・特異度)の向上よりも、検査価格の低下を実現し、価格に応じて許容できる最低限の感度・特異度を設定することも政策課題です。すなわち、許容できる特異度の閾値X%は、検査価格等の他の因子を考慮して計算すべきです。特異度のみに注目する、過去の議論は不毛。

 (11/12) 本研究の結果は、企業経営者や医療機関の管理者にとっても有用。感染者発見に因る工場や医療機関の閉鎖は、経済的損失を伴います。この損失額は、事前にある程度予想可能。この損失額の規模に応じて、PCR検査を導入すべき条件を、本論文は具体的数値(例、推定有病率X%以上 )で明示しました。

 (12/12)本研究の数量的結果は膨大ですので、ここでは紹介し切れません。論文の表4-5とカラフルな図4-18をご覧ください。図4-18中で、2つの因子値の組み合わせで決まる点(例、検査感度X%と検査価格X円;有病率1%と検査陽性者の社会費用100万円)が、図中の赤色部分内にあれば、経済的に正当化できます。

(2020-11-11 16:57)